日本の伝統建築において、床に座って何かを眺めるということは重要な意味を持っている。庭園は屋内に座った視点を中心にレイアウトがされ、それを切り取るように障子のプロポーションが定められている。外を眺めるという行為が庭や建物の形を決定付けているのである。
福岡県早良区にある、周囲を山に囲まれた集落に建つ予約制のレストランバーの計画。敷地は坂道の中腹に位置する600㎡ほどの広い敷地で、麓側は見通しが良く、遠くに油山を望むことができる。要望から大きな建物は必要なく、周囲のゆったりとした環境から、座って景色を眺める縁側だけがあるような小屋を考えた。「座る」という行為が、日本の伝統をテーマにした施主のイメージともつながると考えた。
建物を敷地の中央に配置し、山側に駐車場を設け、麓側に山を望むことができる庭を確保した。まず6畳分の客席を用意し、庭側には天井の高さまである引き戸を設け、全て開ければ客席と庭をひとつながりに利用できるようにした。客席に並行して半間分のバーカウンターを設け、背後には外部のイロハモミジを望む窓と一体となった棚をつくり、庭とイロハモミジ、どちらを向いても外への視線が生まれるようにした。また引き戸は上段を板張りとして視線を遮り、全て閉め切った際には自然と地面の方に視線が向くようにした。セルフビルドで建てたいという要望から、建材は自分たちで手に入れることができる木や土壁、三和土を選択した。