DIY | note architects
2018.05.23
DIY

職人さんと同じ言葉で話したいと思った。

開業したてのころ、ありがたいことに店舗改修の仕事をいただいた。計画を作成し、工務店と契約を経て、お店となる現場は工事に入った。そして、私も現場監理のため幾度となく工事現場に足を運んだ。

現場にまず感じたことは、職人さんとの距離が近いということだ。
会社に勤めていたころは、現場に入っても職人さんと触れ合う機会は皆無と言っていいほどなかった。間にはゼネコンが入っていて、僕らが打合わせをするのはゼネコンの人たち。そこで決まったことをゼネコンから職人に伝えられる。そこには大きな壁があった。

その時の現場ではそうではなかった。計画の意図や図面で表現しきれなかった部分を直接伝えることができるし、職人さんも「君はどうしたいんだ」と聞いてくる。建具枠の納まりをその場で相談して決めることもあった。今話したことが、10分後にはリアルな形になって立ち上がっている。そのやり取りが、現場のドライブ感が、たまらなく楽しかった。

設計者がいくら素晴らしいデザインを描いたところで、建築をつくるのは職人さんや工務店の方々だ。同じ図面でも彼らとのコミュニケーションやモチベーションによって、完成する建築の質が大きく左右される。

さきの現場でも、彼ら側の事情や思いを酌むことができず、自分の意図がうまく伝わらなかったり、モチベーションが丁寧な仕事とは違うところに向いてしまったり、そこにもどかしさを感じた。目に見えないつくり手とのコミュニケーションの質が、目に見える建築の質として立ち上がっていく。

職人さんと同じ言葉で話したいと思った。
そのために、彼らと同じ側に立ってみよう思った。
彼らと同じ言葉を話すことができたら、現場で起こるミスや、予想していなかった出来事や、急な変更点などで、無理なお願いをしなければならないときに、彼らと同じ立場で突破口を探ることができるのではないか。そして、問題にぶつかった時に何かを諦めずにすむのではないか。

そんなことを思い、自分でものを作るということを始めてみたのだ。

職人さんの仕事と比べたら、難易度は比べ物にならないくらい簡易なものだが、それでも自分で手を動かして作っている今、ひとつひとつの寸法の意味を体で理解することができてきている。目には見えないが自分のなかで現場での所作が変わってきていると感じている。

小さなことでも、自分で作るということを続けていれば、職人さんと同じ立場でものづくりに取り組むことができ、結果として建築の質を上げていくと信じている。

私は限りなく、クラフトマンでありたいと思っている。

鎌松亮 ryokamamatsu

追記:大層まじめなことを書きましたが、本当は自分で作ることが好きで楽しいから、というのが理由の大半を占めている気もしています。

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